災害後、被災地のがん患者の多くが日常的に健康情報に触れていた(南相馬市)
がん患者は、医療機関の受診、診断、治療、そして治療後に至るまで、自身の病気やその治療、仕事面や金銭面の問題など、医療・健康に関する様々な情報を得る必要があります。これらの情報を得ることは、がん患者にとって、より自分に合った治療が受けられたり、ライフスタイルを改善できたり、自分の健康にかかわることを自分で積極的に決められるようになったりといったメリットにつながります。現代社会においてこうした健康情報は、医師やメディカルスタッフなどの医療者、医療者以外の家族や友人、メディア、インターネットなどから得ることができます。健康情報を得る方法は、大きく2つに分けられます。ひとつは健康情報探索行動(自分で積極的に情報を得ようと行動すること)、もうひとつは健康情報スキャン(情報を得るために行動しなくても、自然と情報に触れること)です。こうした健康情報を得る機会は、がん患者を取り巻く環境に影響される可能性があります。例えば、災害は医療施設の閉鎖や医療者の流出、がん患者と家族や友人等との分断を引き起こすことがあります。こうした災害に伴う変化によって、健康情報の取得が妨げられることが考えられますが、このことについて十分な調査は行われていませんでした。
福島県沿岸部にある南相馬市は、2011年の東日本大震災によって大きな影響を受けた地域のひとつです。震災前の2010年には70,878人の住民が居住していましたが、東日本大震災および福島第一原発事故によって出された避難指示により、2011年4月には約10,000人まで居住者が減少しました。2015年10月時点で南相馬市の居住者は57,000人まで回復していますが、若年層・中年層が主に避難したこともあり、高齢化が急激に進行しました。そのため、がん患者が家族や地域コミュニティから受けられるサポートが減少している可能性が指摘されています。また、南相馬市では、震災前に5つあったがん診療機関のうちひとつが閉鎖を余儀なくされました。このような状況では、がん患者が健康情報を得られる機会は減少していたかもしれません。
そこで、震災後の南相馬市におけるがん患者の健康情報取得(健康情報スキャンと健康情報探索行動)の状況について調査を行いました。2016年10月から2017年1月にかけて、南相馬市立総合病院を受診したすべてのがん患者と非がん患者を対象に、アンケートを記入していただきました。アンケートの内容は、「健康や病気に関する情報にどの程度触れる機会がありますか」「信頼・信用する情報源はどれですか」といった健康情報に関する質問と、震災前後のパートナーとの同居や年齢、学歴、家族のがん診断歴など、回答者の背景に関する質問です。合計で404人(がん患者263人、非がん患者141人)から回答を頂きました。回答内容を分析した結果、次のことがわかりました。
まず、がん患者の90.5 %、非がん患者の88.7 %について、少なくとも月に1回は健康情報に触れる機会があったことがわかりました。がん患者は非がん患者に比べて年齢層が高くなっていました。がん患者と非がん患者のどちらにとっても、最も信頼できる情報源はテレビでした。がん患者と非がん患者において、テレビの他に新聞や家族、友人が頼りになる情報源でしたが、がん患者はその中でも特に新聞に頼る傾向がありました。今回の調査では情報源として新聞に頼らない患者は、新聞に頼る患者と比べて、日常的に健康情報に接する可能性が低くなっていました。がん患者について、家族との同居は健康情報取得と明らかな関連はありませんでした。一方、非がん患者については、パートナーと同居していない人は健康情報の取得が少ない傾向にありました。これについては、がん患者が病気の性質の違いによって、非がん患者に比べて健康情報への関心が高い可能性や、がん患者が非がん患者よりも病院や診療所に定期的に長期間通うことが多いために、医療従事者からより多くの情報を得ている可能性が考えられます。また、がんと診断された家族がいない人については、そうした家族がいる人に比べ、健康情報に全く触れない確率が高くなっていました。また、健康情報に定期的に触れているかどうかは、定期的な医療機関の受診とは関連がありませんでした。以上のことから、南相馬市立総合病院を受診するがん患者の大部分については、定期的に健康情報に触れる機会があったと言えます。また、がんと診断された家族がいない人、情報源として新聞に頼らない人など、健康情報に触れる機会が少なくなる可能性がある人々の特徴がいくつか明らかになりました。災害状況でがん患者に健康情報を提供するためのより良い方法が開発され、災害以外の状況にも応用されることが望まれます。
高齢者などにインターネットを通じた健康情報取得の支援が必要
災害は医療施設の閉鎖や住民の孤立を引き起こすことがあり、このような状況では、インターネットは住民にとって重要な情報源のひとつとなりえます。震災後に医療機関の閉鎖を経験した南相馬市も例外ではありません。そのため、我々は、同じデータを用いて、インターネットを通じた健康情報取得についてさらに調査を行いました。
その結果、がん患者の約19 %、非がん患者の約17 %がインターネットを通じて健康情報を取得していることがわかりました。また、若い年齢層ほど、インターネットを通じた健康情報取得の割合が高くなっていました。スマートフォンやタブレットの日常的な使用が、がん患者の健康情報取得と強く関連していました。スマートフォンの使用率はがん患者も非がん患者も49歳以下が最も高くなっていました。また、がん患者と非がん患者の両方で、公的機関のウェブサイトへの信頼が健康情報取得と関連していました。この結果から、特に高齢者や低所得者など、デジタル機器へのアクセスが限られている集団への支援の必要性が浮き彫りとなりました。また、公的機関による信頼性の高い情報提供と、その情報へのアクセスの向上が重要になると言えます。今後は、人々の年齢や社会経済状況に応じたきめ細やかな情報提供戦略の開発が必要になります。
今回の調査は、災害により長期的な影響を被っている地域での健康情報提供の在り方に新たな視点を提供し、今後の災害対策に貢献することが期待されます。
謝辞
今回の研究にご協力いただいた患者の皆様、病院関係者の皆様に深く御礼申し上げます。
作成者:松本智紘