2011年3月11日に発生した東日本大震災は地震、津波、原発事故の三重災害であり、被災地に大きな被害と混乱をもたらしました。震災に伴い発生した福島第一原発事故により環境中に放射性物質が放出されたため、福島第一原発から最終的に半径20 km圏内の住民が避難を余儀なくされました。外傷など災害による直接的な影響だけでなく、避難の負担や生活環境の変化など災害による間接的な影響により、高齢者を中心に多くの方が亡くなりました。被災地の支援および今後起こりうる災害への対策のために、災害による間接的な影響を理解することが重要です。今回は、東日本大震災および福島第一原発事故における、災害の間接的な影響を調査した研究を紹介します。
災害の間接的な影響による高齢者の死亡リスクは、発災後1か月間で特に高まる(相馬市・南相馬市)
災害時、高齢者は若年者よりも高い健康リスクにさらされます。高齢化が進む日本において、災害時のリスク管理(予防、準備、対応、復旧、再建)は公衆衛生上の重要な課題です。2011年3月11日に発生した東日本大震災および福島第一原発事故では、高齢化の進んだ地域が地震、津波、原子力災害の三重苦に見舞われました。福島第一原子力発電所の北10~45 kmに位置する相馬市と南相馬市では、この三重災害によって住民の健康に大きな悪影響が及びました。自然災害や人災の健康への影響は、直接的なものと間接的なものがあります。災害の直接的な健康影響とは、災害に直接起因する外傷や熱傷などのことです。高齢者は、身体能力の低下などから、災害後に直接的な健康影響により死亡するリスクが高まります。一方、間接的な健康影響を認識することも非常に重要です。大災害は地域の医療体制や食料・水などの物資供給にダメージを与え、住民が避難せざるを得なくなることが多々あります。これまでの研究では、災害後の循環器系疾患や感染症による死亡リスクの増加など、災害による間接的な健康影響が報告されています。しかし、災害の間接的な影響に関する研究は限られていました。原因としては、災害の間接的な影響は直接測れるものではなく、間接的な健康影響と死亡率の因果関係を証明するのが困難だったためです。そのため、本研究では、次の2点を目的としました。まず、福島県の相馬市と南相馬市における、三重災害の間接的な健康影響による超過死亡を評価しました。また、災害後の間接的な健康影響のリスクがある期間と、間接的な健康影響を受けやすい人々の特徴を調べました。
今回の調査では、2006年1月から2015年12月までの全国調査における人口動態統計記録を用いました。人口動態統計記録の二次利用にあたっては、統計法に従って厚生労働省の承認を得ました。人口データは、住民基本台帳から取得しました。災害の直接的な影響による死亡を除外した後、災害前後の死亡リスクの増加として、超過死亡リスクを調べました。また、回帰分析を用いて、居住都市、年齢、年を調整した後の死亡率の相対リスクを推定しました。
今回は、災害前(6163人)と災害後(7215人)の総死亡者数のうち、震災の直接的な影響による死亡1090人を除外して分析を行いました。まず、震災前と震災後の月別死亡率を比較したところ、震災後の最初の月(2011年3月)の死亡リスクは、男女ともに震災前(2006年3月~2010年3月)の同月よりも有意に高かったことがわかりました。これは、震災後の1か月間、災害の間接的な影響による超過死亡リスクが高まっていたことを示します。震災前に対する震災後1か月の推定相対リスク比は、男女それぞれ2.64、2.46でした。震災発生から1か月後、高い死亡リスクが確認された時点で、特に大きな割合を占めていた死因は肺炎(全死亡の28 %)、脳卒中(15 %)、冠動脈性心疾患(10 %)、がん(9 %)の4つでした。震災前の同月は肺炎、脳卒中、冠動脈性心疾患、がんがそれぞれ16 %、14 %、9 %、26 %であり、これらの死因は、震災前よりも震災後(2011年3月)にリスクが有意に高くなっていました。また、年齢別に解析を行うと、震災前と比較して震災3か月目の85歳以上の女性における死亡リスクが有意に高く、震災前に対する相対リスク比は1.73でした。
今回の調査では、災害による間接的な健康影響は、発災後1か月で最も深刻であったことがわかりました。また、今回の結果は、災害の間接的な健康影響による死亡リスクは、若年層よりも高齢者の方が深刻で、長く継続する可能性があることを示しています。先行研究では、2011年の震災後に慢性疾患や精神障害の負担が増加することが報告されており、今回の結果と一致しています。また死因については、がんなどの慢性疾患を持つ患者や、肺炎、冠動脈性心疾患、脳卒中などの急性疾患を持つ患者は医療への依存度が高く、災害および避難による医療へのアクセスの喪失、環境変化、身体的・精神的ストレスなどの影響を受けやすいと考えられます。特に、震災後1か月間は肺炎による死亡者が多かったのですが、症例のほとんどは誤嚥性肺炎であり、患者の日常生活動作の低下と関連していることが示唆されています。災害後の医療供給の低下により、十分な口腔ケアが提供できなかった可能性があります。公衆衛生の面からの早期支援、特に高齢者への支援は、非常に重要であると考えます。
震災後5年間で、被災地域では損失生存年数の改善が見られた(相馬市・南相馬市)
2011年に発生した東日本大震災および福島第一原発事故では、被災地は地震、津波、原発事故の三重苦に見舞われました。福島第一原発事故の影響を強く受けた福島県では、住民が避難による医療環境や生活環境の変化に直面しています。震災により、被災地の医療・福祉サービスやインフラ、社会資本や人々のネットワークは混乱しました。しかし、災害後のネガティブな変化だけでなく、ポジティブな変化に着目することも必要です。震災後であっても日本人の余命は伸びており、2015年には早期死亡の指標である損失生存年数が減少しているのです。福島県も例外ではありませんでした。しかし、なぜ福島県の被災自治体で損失生存年数の減少が起こったのかは不明です。また、損失生存年数の減少をもたらした死因が何かもわかっていません。そのため、本研究では、被災地における損失生存年数を年齢と性別によって分け、その死因を明らかにし、日本の全国平均と比較することを目的としました。
今回は、福島第一原発から北10~45 kmの範囲にある、福島県相馬市と南相馬市を対象として調査を行いました。これらの地域は、地震、津波、原発事故を経験しており、住民1000人以上が地震と津波による直接的な負傷によって亡くなりました。今回の調査では、2006年1月から2015年12月までの対象地域(相馬市、南相馬市)の人口動態統計記録から住民の死亡に関する情報を得ました。人口動態統計記録のデータは通常非公開ですが、統計法に従い厚生労働省の承認を得て分析に使用しました。災害の間接的な影響(地震や津波による外傷などではなく、避難したことに起因する死亡など)を調査するため、得られたデータのうち、災害の直接的な影響(外傷など)によって亡くなった方のデータを除外し、残った12,627人分のデータについて解析を行いました。震災前の期間を2006~2010年、震災後を2011~2015年とし、それぞれの死亡者数は6,369人、6,258人でした。登録は震災前の住所に基づいており、震災後に対象地域外に転居した住民も解析に含めました。対象地域と全国平均の両方について、年齢別の死亡率に基づいて余命および損失生存年数を求めました。また、死因は心疾患、脳血管疾患、肺炎、各種がんについて解析しました。
結果、次のことがわかりました。まず、対象地域の男性の心疾患に起因する損失生存年数は減少せず、震災後の損失生存年数は全国平均より0歳時で0.37年大きくなっていました。また、対象地域の男性の心疾患に起因する損失生存年数は、震災後には震災前よりも65歳時で0.17年増加していました。一方、対象地域の女性の心疾患に起因する損失生存年数には減少が見られ、震災後には震災前よりも0.37年減少していました。脳血管疾患における損失生存年数は、全国平均よりは大きな数値であったものの、男女ともに震災後わずかに減少していました(それぞれ0.27年、0.32年の減少)。福島第一原発事故で放射性物質が環境中に拡散されたことにより、相馬市や南相馬市を含む福島県沿岸地域では放射線被ばくによる健康影響が懸念されていましたが、今回の調査では、がんに起因する損失生存年数は、震災後の増加は見られませんでした。細かく見ると、女性の乳がん、男性の胃がんにおいて損失生存年数の減少が見られました。ほかには、肺炎(男性)、白血病(女性)で損失生存年数の減少が見られました。先行研究では、福島第一原発事故およびそれに伴う避難は、避難の負担や生活環境の変化などを引き起こすことから、生活習慣病の有病率の増加が報告されています。その一方、今回の結果は、震災後5年という長期的視点で見れば、対象地域で実施された様々な医療対策が功を奏し、損失生存年数の減少に至った可能性を示唆しています。また、今回の結果から、損失生存年数の変化は死因や性別によって異なることが示されました。死因や性別によって、損失生存年数が改善された部分もありますが、心臓病(男性)や脳血管疾患(男女とも)など、特定の死因の損失生存年数は全国平均よりも大きな値になっていました。65歳の男性の心疾患については、震災後に悪化傾向が見られました。したがって、死亡を減少させるための医学的、社会的な対策は重点的に研究されるべきです。災害による繰り返しの避難や仮設住宅への入居は、被災者の運動不足やコミュニケーション不足による生活習慣病の悪化を引き起こす可能性があります。今回の調査の対象地域は、全域ではなく一部区域が避難区域でしたが、全域が避難区域となった自治体では、さらに困難な状況に直面していた可能性があります。住民間のコミュニケーションを促進し、生活習慣病の予防を支援することが大切です。
結論として、今後、災害の影響を受けた地域では、死亡を減少させることができると考えられます。本研究は、死亡率の上昇だけに焦点を当てるのではなく、被災地域の健康状態がどのように変化したか、包括的な観点から理解することの重要性を強調しています。
まとめ
今回は、東日本大震災および福島第一原発事故における、災害の間接的影響についての研究を紹介しました。災害による間接的な影響による死亡は、発災後1か月間が最も発生リスクが高く、高齢者は特に深刻かつ長期的な影響を受ける可能性が示唆されました。また、避難に伴う負担や生活環境の変化などによって、被災地域では生活習慣病の有病率が増加していたことが先行研究で報告されている一方、地域全体を長期的な視点で見れば、死因や性別によっては震災前よりも損失生存年数が改善している(死亡が減少している)側面があることもわかりました。地域の医療対策が功を奏していると考えられ、今後死亡を防ぐためのさらなる研究が望まれます。
謝辞
震災後の困難な状況の中、災害対応や被災地の復興に取り組まれた方々に敬意を表します。また、今回の研究にご協力くださった関係者の皆様に深く御礼申し上げます。
作成者:松本智紘