2011年3月11日に発生した東日本大震災及び福島第一原発事故により、環境中に放射性物質が拡散しました。この事故により、最終的に福島第一原発から半径20 kmの範囲に避難指示が出されました。その後、除染や風化などにより空間放射線量が低下した地域については避難指示が解除され、避難していた住民の帰還が進みました。こうした帰還者が少しでも安心して生活を送れるように、旧避難区域における外部被ばくのレベルを把握することは重要です。今回は、旧避難区域での外部被ばく線量について調査した研究をまとめました。
モデルで推定された外部被ばく量よりも、直接測定された外部被ばく量の方が小さい
2011年3月11日に発生した東日本大震災及び福島第一原発事故により、環境中に放射性物質が拡散しました。これにより、福島第一原発周辺の地域では放射線被ばくが懸念されました。こうした地域において、住民の被ばくレベルを正確に評価することは非常に重要です。除染活動や避難指示などの放射線防護政策の有効性を評価し、住民の安全確保のためにさらなる対策が必要かどうか判断するために、被ばくレベルの正確な把握が必要になります。放射線被ばくは、線源が体外か体内かで、外部被ばく(体の外にある放射性物質から放出される放射線による被ばく)と内部被ばく(体内に取り込まれた放射性物質から放出される放射線による被ばく)に分けられます。外部被ばくと内部被ばくによる被ばく量の推定は、住民が生活している地域の空気中や土壌中の放射線量に基づいて算出されます。一方、住民個人について直接被ばく量の測定を行う方法もあります。外部被ばくについては線量計、内部被ばくについてはホールボディカウンター(WBC)を用いて個人の被ばく量を測定することができます。
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)や世界保健機関(WHO)など、いくつかの機関が放射線被ばくレベルや人体へのリスクを評価するための線量推定モデルを開発していますが、モデルにより推定された外部被ばく量の値と直接測定した外部被ばく量の値は一致しない可能性があります。例えば、外部被ばくの場合、住民が過ごす建物(家、学校、職場の建物など)による放射線遮蔽効果の程度や住民の行動パターンが外部被ばく量に影響します。モデルによる推定の場合、住民の代表的な個人、地区、または都道府県レベルの被ばく線量の平均を示しています。したがって、推定に使用したデータが個人の行動範囲、地区、または都道府県レベルの環境中の放射性核種の分布をどの程度正確に表しているかということについては、不確かさが残ると考えられます。しかし、直接測定では、測定を行った時点での個人レベルの被ばく線量しか示すことができないため、1年間の地区レベルまたは都道府県レベルの被ばく線量を評価するためにはモデルによる推定が必要です。そのため、モデルによる被ばく量の推定値と直接測定による被ばく量の実測値がどの程度一致するかを調べ、モデルによる被ばく量の推定の不確かさを評価することは重要です。
福島第一原発事故を受け、福島県南相馬市(福島第一原発から14~38 kmの位置)は、南相馬市立総合病院と協力し、2011年10月に住民の外部被ばく量のスクリーニングプログラムを開始しました。このプログラムでは、南相馬市民の外部被ばくレベルを個人用の線量計で直接測定を行いました。このデータを用いて、次の2つのことを行いました。
1.福島第一原発事故から18~30か月後の住民の実効線量について、モデルによる年間外部被ばく量の推定値と実測値がどの程度一致するか評価しました。
2.日本政府の線量推定モデルの不確かさを推定し、実測された線量との不一致の可能性を示しました。
本研究は、モデルによる推定値の不確かさの原因について、根拠となるデータを提供することを目的としています。こうした不確かさを把握することは、放射線災害によって大規模な放射性物質の放出が起こった場合の住民の放射線被ばくを評価するために不可欠であり、政府、地方自治体、医療従事者、災害コーディネーターが最適な放射線防護策を策定するのに役立つでしょう。
南相馬市は2011年10月、放射線防護製品メーカーの千代田テクノル株式会社と協力し、住民の外部被ばくスクリーニングプログラムを開始しました。このプログラムは、南相馬市に住む乳幼児、学生(小学生~高校生)、妊婦に無料で提供されました。プログラムは3か月に1回実施されました。プログラムの参加者には、市役所から外部被ばくを測定するための線量計が送られ、3か月間線量計を首から提げて過ごすよう依頼されました。これまでの研究から、この測定期間、南相馬市の住民の内部被ばく線量はわずかであったことが示されています。そのため、線量計の値が参加者の内部被ばくに影響された可能性はほとんど無視できると考えられます。測定期間が終わった後、線量計は市役所に返却され、南相馬市立総合病院は測定された線量を記録しました。この際、各参加者には、行動パターン(通学時間や屋外で過ごした時間など)や線量計の使用状況(平日や休日にどの程度の時間線量計を身に着けていたかなど)、自宅の住所を回答してもらいました。本研究では、2012年9月1日から2012年11月31日の間に実施されたスクリーニングの参加者1956人について、得られたデータの解析を行いました。
日本政府のモデルによる外部被ばくの推定値と、スクリーニングプログラムで得られた実測値を比較したところ、推定値は実測値よりも大きく、推定値と実測値には3倍ほどの違いがみられました(全参加者の平均)。この違いについて、考えられる要因がいくつかあります。まず、日本政府のモデルでは、放射線に対する感度を年齢などによって変化させることをしていません。空気中の放射線量から実効線量(放射線が人体に与える影響の大きさを表す量)に換算するときに使用する係数を一律に1として計算しています。しかし、この係数は、年齢などによっては1より小さい値をとりうることがいくつかの研究で示されています。また、建物内に入ることによる放射線低減効果の不確かさも、推定値と実測値の違いに寄与したと考えられます。日本政府のモデルでは、屋外にいる時間を8時間、屋内にいる時間を16時間として計算しています。しかし、今回の調査では、ほとんどの参加者が放課後と週末の屋外で過ごした時間について、それぞれ2時間未満と4時間未満であったと回答しました。さらに、建物内に入ることによる放射線低減効果は、空間線量率(その場所の空間の放射線量を示す値)が高いほど効果が大きい傾向がみられました。建物による放射線の遮蔽効果が、その場所の空間線量率に影響を受けることは、他の研究でも示されています。
いくつかの自治体では、このように住民が直接測定によって外部被ばく量を確認できるシステムが提供されています。これは住民個人の状況に沿った外部被ばく量を把握するうえでとても望ましいことです。しかし、直接測定でわかるのは個人レベルの測定時の被ばく量のみであり、1年間の地区レベルまたは都道府県レベルの集団の平均被ばく量を評価したいときは、モデルによる推定が必要になります。その際は、推定値の不確かさを十分に考慮しなければなりません。信頼性の高い被ばく量推定は、あらゆる大規模な放射線災害への対応を検討するうえで重要です。モデルによる推定値の不確かさについて、さらなる調査が必要です。
南相馬市における外部被ばく量は日本の他県3都市とほぼ同等
2011年3月11日に発生した東日本大震災および福島第一原発事故により、環境中に放射性物質が放出されました。そのため、福島第一原発周辺の地域では、住民の放射線被ばくが重要な懸念となりました。慢性的な放射線被ばくは、大きく内部被ばく(体内に取り込んだ放射性物質による被ばく)と外部被ばく(体外の放射性物質による被ばく)に分けられます。内部被ばくは、放射能検査を受けていない地元産の食品を摂取するなどの食習慣に大きく影響されます。福島第一原発事故後、政府や自治体が市場に流通する食品の放射能汚染検査を徹底したため、住民の内部被ばくは非常に低いレベルに抑えられました。一方、外部被ばくは、住民が日常的に長期間過ごす場所の空間線量率(外気中の放射線濃度を示す指標)や居住形態などに大きく依存します。しかし、住民がその外部被ばくの大部分をいつどこで受けたか、また、住民が長時間過ごす場所でどのくらい外部被ばくを受けるのかなど、詳しいことはまだわかっていません。外部被ばくに関しては、放射性物質の物理的減衰や風化、除染などの対策により、毎年徐々に空間線量率が低下しています。また、福島第一原発周辺の自治体では、個人線量計による住民の外部被ばく線量のスクリーニングプログラムが実施されており、住民の外部被ばく量は年々減少していることも確認されています。しかし、それまで使用していた個人線量計による外部被ばく量モニタリングでは一定期間の外部被ばく量の累積しかわからないため、住民がいつどこで大部分の外部被ばくを受けたか詳しい情報は得られません。このような状況に対応するため、今回の調査では、1時間当たりの外部被ばく線量を測定できる線量計Dシャトルを導入しました。
福島県南相馬市は福島第一原発の北10-40 kmに位置しています。福島第一原発事故の直後、同市の一部(小高区)が原発から半径20 km圏内に含まれていたために避難指示が出されました。南相馬市の空間線量率は時間の経過とともに徐々に減少し、事故から約5年後、小高区の避難指示が解除され、住民の帰還も進みました。しかし、住民個人の行動パターンと外部被ばく線量の関係はほとんどわかっていませんでした。そのため、南相馬市長の指示のもと、南相馬市における外部被ばく線量と日本の他の3都市(日本で比較的自然放射線量が高い広島県福山市、富山県南砺市、愛知県多治見市)における外部被ばく線量を比較するプロジェクトが実施されました。本研究では、次の2点を目的として、このDシャトルを用いた外部被ばく線量評価プロジェクトの結果を解析しました。
(1)南相馬市における外部被ばく線量を評価し、他の自治体と比較すること。
(2)行動パターンと外部被ばく線量の関係を評価し、他の自治体と比較すること。
外部被ばく線量の測定は、各自治体から25人の職員(計100人)が参加しました。測定期間は2017年5月29日から2017年6月11日までの2週間でした。測定期間、参加者は常に線量計を携帯するよう指示されました。その以後、線量計を市役所に返却し、専用の装置を用いて測定値を読み取りました。各参加者の積算外部被ばく線量は1時間ごとに記録されました。また、アンケートによって各参加者の30分ごとの行動を記録しました。行動については、職場(市役所)、家屋(自宅)、屋内(市街地)、屋外(市街地)、交通機関による移動中、屋外(市外)、屋内(市外)の7つのカテゴリに分けて記入されました。線量計の測定値とアンケートの回答を解析した結果、次のことがわかりました。
まず、100人の参加者の外部被ばく線量は0.566~1.295 mSv/年の範囲にあり、平均値は0.784 mSvでしたが、南相馬市における平均外部被ばく量(0.820 mSv/年)は、他の3つの都市と同程度でした(福山、南砺、多治見でそれぞれ0.793、0.806、0.718 mSv)。これは、被ばく線量を低減するための追加措置を必要とするレベルの被ばく線量ではありません。行動の7つのカテゴリのうち、どこにどの程度滞在していたかの傾向は自治体ごとにある程度異なりますが、4つの自治体すべてにおいて、自宅と職場での滞在時間(それぞれ56.9 %と24.9 %)が一日の多くを占めていました。全参加者の総外部被ばく量の平均は2週間で30.1 μSvでしたが、職場と家庭での外部被ばく量の平均はそれぞれ17.6 μSvと7.4 μSvであり、総外部被ばく量の多くを占めていました。自宅や職場にいるとき以外の時間帯の外部被ばく量は、市内・市外、屋内・屋外を問わず、非常に少ないという結果になりました。行動と外部被ばく量の関係を回帰モデルにより解析してみると、南相馬市と福山市は行動によって外部被ばく量に明らかな違いがあり、南砺市と多治見市は行動による外部被ばく量の違いが少ないことがわかりました。今回の調査から、今後は高い外部被ばく線量を示す個人に対して、家庭や職場での連続的な外部被ばく量測定と対策が重要であることが示唆されました。
帰還者の外部被ばく線量は非常に低かった(南相馬市)
2011年3月11日に発生した東日本大震災および福島第一原発事故により、環境中に放射性物質が拡散されました。そのため、福島第一原発周辺の住民の放射線被ばくは、公衆衛生上の重大な懸念となりました。福島第一原発事故の直後、政府による避難指示は福島第一原発の半径20 km圏内の地域に及びました。その後、避難指示が出されていた地域では、時間経過や除染による空間線量率(外気中の放射線濃度を示す指標)の低下に伴い、徐々に避難指示の解除と住民の帰還が進みました。こうした旧避難区域では、社会的インフラの除染と復旧が進んでいます。しかし、避難指示の解除としった行政上の決定だけでは、避難者が故郷に戻るか、地域社会を再建するかを決定する十分なインセンティブは得られません。むしろ、帰還者の人口統計学的特徴や生活、帰還後の被ばく線量レベルなど、住民の実際の状況をモニタリングし、サポートすることが必要です。旧避難区域における被ばく量に影響する因子を把握し、管理することは、旧避難区域での住民の生活を維持・再建するうえで不可欠です。
福島第一原発から14~38 kmに位置する福島県南相馬市は、その一部地域(小高区)が避難区域に指定されていました。事故から5年と4か月後の2016年7月12日、南相馬市のほとんどの地域で避難指示が解除されました。放射線被ばくに対する住民の懸念に応え、市は2011年10月から、住民を対象とした外部被ばくスクリーニングプログラムを実施しています。本研究では、このプログラムで得られたデータをもとに、南相馬市の旧避難区域(小高区)の帰還者の人口統計学的特徴と生活、および外部被ばく量について調査しました。
外部被ばくスクリーニングプログラムは3か月に1回実施されました。プログラムの参加者には個人線量計が配布され、測定期間中は線量計を身に着けていることなど、線量計の正しい使い方が案内されました。なお、このプログラムが実施された時点では、行政によって市場に流通する食品の放射能汚染検査が迅速かつ厳格に行われていたために、住民の慢性的な放射線被ばくにおける内部被ばくの影響は非常に限定的でした。また、プログラムの参加者には、個人の職業や日常的な行動(平日や週末に屋外で過ごした時間など)に関するアンケートに回答してもらいました。このアンケートでは、非帰還者(震災後小高区に居住していない人)については、小高区に立ち入る頻度も質問されました。また、線量計を適切に着用していたかどうかを確認する質問も含まれました。
まず、今回の調査に参加した112人の帰還者(29.6 %)と266人の非帰還者(70.4 %)の人口統計学的特徴をまとめました。ほとんどの参加者は高齢者であり、帰還者は非帰還者よりも高齢者が多い傾向にありました。また、多くの参加者は退職または失業していました。1日6時間以上屋外で過ごした人の割合は、帰還者(小高区)、非帰還者(南相馬市内の旧避難区域外)、非帰還者(南相馬市外)でそれぞれ、平日は13.4 %、10.9 %、8.2 %、週末は11.6 %、9.0 %、6.4 %でした。これらの割合も、帰還者と非帰還者で統計的有意差は認められませんでした。
次に、各年の3か月間の線量測定値から、年間追加実効線量(原発事故で拡散した放射性物質による、体内の各組織への影響を考慮した1年間の被ばく線量)を推定しました。ここでは、線量計を適切に使用していなかったと考えられるプログラム参加者のデータは含めませんでした。残った帰還者57人(32.8 %)、非帰還者(67.2 %)について年間追加実効線量を分析すると、1.0 mSv以上であった参加者の割合は、帰還者(小高区)で7.0 %、非帰還者(南相馬市内の旧避難区域外)、非帰還者(南相馬市外)でそれぞれ7.3 %と4.2 %でした。一方、外部被ばく量が検出限界以下であった参加者の割合は、帰還者(小高区)で10.5 %、非帰還者(南相馬市内の旧避難区域外)、非帰還者(南相馬市外)でそれぞれ33.3 %と62.5 %でした。外部被ばくによる年間追加実効線量については、帰還者と非帰還者の間で明らかな差が見られました。南相馬市内の旧避難区域外に住む非帰還者と、南相馬市外に住む非帰還者の間には、有意差は見られませんでした。職業や屋外で過ごす時間などで調整した回帰分析から、帰還者の外部被ばくによる年間追加実効線量は、南相馬市外に住んでいた非帰還者に比べて1.53倍高いことがわかりました。南相馬市内の旧避難区域外に住む非帰還者と比べても、1.30倍高くなっていました。このことから、外部被ばくレベルには、生活習慣の違いよりも、居住地の空気線量率が影響している可能性が示唆されました。
今回の研究で特に強調すべきことは、今回のデータから推定される、帰還者の外部被ばくによる年間追加実効線量は非常に小さく、外部被ばくによる健康への影響は考えづらいということです。
旧避難区域に帰還した住民の外部被ばく線量は非常に低い(10の自治体)
2011年3月11日に発生した東日本大震災および福島第一原発事故により、環境中に放射性物質が拡散されました。これにより、福島第一原発周辺の住民の放射線被ばくが公衆衛生上の重大な懸念となりました。福島第一原発事故後、福島第一原発から20 km圏内の地域には避難指示が出され、10万人以上の住民が避難を余儀なくされました。その後、年間追加実効線量(福島第一原発から放出された放射性物質による、身体の各組織への影響を考慮した年間の放射線被ばく量)が20 mSv未満とみなされることや、日常生活に必要なインフラや生活関連サービスが十分な除染作業によって回復されていること、県・自治体・住民による話し合いがもたれていることを条件に、いくつかの自治体で避難区域の解除が進みました。福島第一原発事故の発生から8年が経過した時点で、避難していた住民の帰還が徐々に進んでいました。しかし、避難指示が解除されただけでは、こうした帰還者がコミュニティを再建する十分な動機付けにはなりません。帰還者のためのタイムリーで質の高い線量評価も必要です。様々なモデリング手法により、旧避難区域に戻る住民の放射線被ばく量を評価する研究が行われてきましたが、住民の放射線被ばく量を実際に測定した結果に基づく研究はほとんどありませんでした。2017年に本研究グループは限られた地域における帰還者の外部被ばく線量を評価する研究を実施し、放射線被ばくによって帰還者の身体に影響が出る可能性は非常に低いことを明らかにしました。この結果を受けて、2019年の本研究では、調査対象をすべての旧避難区域に拡大しました。本研究は、個人の外部被ばく線量のモニタリングに基づき、旧避難区域への帰還者に外部被ばくの状況について最新の情報を提供することを目的としました。また、政府による空間モニタリングによって決定された空間線量率と、住民の外部被ばく線量の実測値との相関を確認しました。
福島第一原発事故の後、政府によって、福島第一原発から20 km圏内に位置する地域やそのほか年間追加実効線量が20 mSvに達する可能性があった地域、放射線量の把握ができない地域などに段階的に避難指示が出されました。避難区域は時期とともに変遷したものの、合計12の自治体がその一部または全部を避難区域に指定されました。こうした地域において、主に考えられる被ばく経路は、地上に蓄積した放射性物質による外部被ばく(グラウンドシャイン)、放射性プルーム中の放射性物質による外部被ばく(クラウドシャイン)、放射性物質を含む塵やプルーム中の放射性物質の吸入による内部被ばく(吸入)、および食品や飲料水中の放射性物質の摂取による内部被ばく(摂取)です。内部被ばくは体内に取り込んだ放射性物質による被ばく、外部被ばくは体外の放射性物質による被ばくを指します。福島第一原発事故後、政府や自治体が市場に流通する食品の放射能汚染検査を迅速かつ厳密に行ったため、住民の内部被ばくは非常に低いレベルに抑えられました。事故から8年が経った時点で、慢性的な放射線被ばくの経路は主にグラウンドシャインによる外部被ばくと考えられています。
今回の調査では、12の自治体のうち、11の自治体に住む個人を対象に、2019年2月12日から25日の間に外部被ばく線量のモニタリングを実施しました。外部被ばく線量を測定する線量計として、千代田テクノル社のDシャトルを使用しました。モニタリングの参加者には、測定期間中は線量計を身に着けていることが案内されました。線量計は測定期間の後、研究者らで回収し、データの分析が行われました。また、モニタリング参加者には、1時間ごとにどの場所にいたか(屋外か屋内かなど)を調べるためのアンケートが配布されました。このモニタリングは、モニタリングへの参加に伴う地域住民への負担を最小限にとどめるため、主に自治体職員などの公務員を対象として行いました。
今回のモニタリング参加者のうち、2019年2月12日時点で避難指示が解除されていなかった自治体の住民などを除く、10の自治体の239人についてデータが分析されました。239人全体の年間追加実効線量は0.44~4.33 mSvの範囲内であり、平均値は0.90 mSvでした。今回の結果からは、外部被ばくによる帰還者の身体への影響は非常に小さいと考えられます。また、政府の空間モニタリングに基づく空間線量率と、今回得られた住民個人の外部被ばく線量には、統計的に有意な相関があることがわかりました。このことは、空間モニタリングが、帰還者の外部被ばく線量のレベルを理解するのに十分な情報を提供できるということを示唆しています。今回の調査結果は、住民の個人被ばく線量のモニタリングと、政府による空間モニタリングの両方がどのように機能するかについて情報を提供し、社会的議論を深めるものと考えられます。
まとめ
今回は、旧避難区域の帰還者の外部被ばくを調査した研究について解説しました。まず、福島第一原発から14~38 kmに位置し、避難区域を含む福島県南相馬市における平均外部被ばく量は他県3都市と同程度であることがわかりました。旧避難区域を含む10の自治体を対象とした調査では、帰還者の外部被ばくによる年間追加実効線量は非常に小さく、健康への影響は考えづらいレベルであったことがわかりました。
政府の空間モニタリングに基づく空間線量率は、住民個人の外部被ばく線量と統計的に有意な相関があり、帰還者の外部被ばく線量のレベルを理解するのに十分な情報を提供できそうです。また、政府は長期間または広範囲の被ばく線量を見積もるために、モデルによる外部被ばく量の推定を行っています。その推定値は、スクリーニングプログラムで得られた実測値よりも平均で3倍ほど大きいことがわかりました。モデルによる被ばく量の予測については、今後さらなる研究が必要になります。
謝辞
被災者の帰還や住民の安心向上に取り組まれた方々、調査に協力された住民の皆様に深い尊敬と感謝の意を表すとともに、今回の研究にご協力いただいた方々に厚く御礼申し上げます。
作成者:松本智紘