福島第一原発事故後の外部被ばくに対する除染の効果

 2011年3月11日に発生した東日本大震災及び福島第一原発事故により、環境中に放射性物質が拡散しました。空間線量率(外気中の放射線濃度を示す指標)が比較的高い地域では、住民の外部被ばくを低減するために除染が行われます。こうした地域における除染の効果を評価することは、今後の放射線被ばく対策を検討するうえで重要です。今回は、福島第一原発周辺地域における、除染による外部被ばく低減効果について調査した研究について解説します。

放射線災害後の迅速な除染が帰還者の外部被ばく低減に効果的(南相馬市)

 2011年3月11日に発生した東日本大震災および福島第一原発事故により、放射性物質が環境中に放出されました。これにより、福島第一原発周辺の地域では、放射線による被ばくが大きな健康上の懸念となりました。放射線被ばくは大きく内部被ばく(体内に取り込んだ放射性物質による被ばく)と外部被ばく(体外の放射性物質による被ばく)に分類されます。内部被ばくについては、福島第一原発事故後に行政が市場に流通する食品の放射能汚染検査を迅速かつ厳密に行ったために、非常に限られたレベルに抑えられたことがわかっています。そのため、慢性的な放射線被ばくは主に外部被ばくによるものと考えられます。いくつかの研究により、推定される外部被ばく線量は避難区域の外側では低いと報告されていますが、更なる長期的な評価が必要です。

空間線量率(外気中の放射線濃度を示す指標)が比較的高い地域では、外部被ばくを低減するために除染が行われています。除染は次の手順で行われます。まず、対象地域の放射線量を測定し、除染が必要なゾーンを決定します。次に、除染が必要なゾーンについて、表土の剥離、枝や葉の伐採、建物の表面の洗浄などによる放射性物質の除去、または土壌やコンクリートなどによる被覆(放射線の遮蔽のため)を行います。最後に、除去作業で発生した放射性物質を含む表土などを移動し保管します。

 福島第一原発事故後の除染の有効性についてはいくつか報告があります。例えば、特別除染地域で2017年6月までに実施された放射線量モニタリングにより、除染を行った地域で空間線量率が約53 %減少したことがわかっています(平均1.31μSv/hから0.62μSv/h)。住宅地、農地、道路については、空間線量率は約40~60 %減少し、森林では27 %減少しました。これらの研究では、福島第一原発事故後の除染が除染対象地域の地表や空間の放射線量を低減する効果について評価されています。しかし、住民個人の被ばく線量に対する除染の影響については、情報が限られています。

 福島県南相馬市(福島第一原発から14~38 kmの距離)は、福島第一原発事故による放射性物質の拡散の影響を受けており、市内の一部が避難区域に指定されました。また、市の約3分の1(南側)が特別除染地域に指定され、3分の2(北側)が汚染状況重点調査地域に指定され、市の主導で除染が進められました。同時に、2011年10月以降、南相馬市では希望する住民の外部被ばくスクリーニングプログラムを実施しています。このプログラムは住民の参加率が高いため、住民個人の外部被ばく線量に対する除染の影響を評価することが可能です。本研究では、除染による住民個人の外部被ばく線量低減効果と、除染時期の影響を評価することを目的としました。

 南相馬市では、福島第一原発事故後、福島第一原発から20 km圏内に含まれていた市内の一部が避難区域とされました。福島第一原発から放出された放射性降下物の分布が不均一であったため、避難区域は北西方向へと拡大されました。本研究では、避難区域外かつ汚染状況重点調査地域に指定された地域の住民を対象に、2013年6月~2016年9月の間に行われた外部被ばく検査のデータを分析しました。このプログラムでは、3か月ごとにスクリーニングが実施されています。本研究では、便宜上次の3つの時期に分けて分析を行いました。

期間1:2013年6月~2013年8月(t=1)、2014年6月~2014年8月(t=2)

期間2:2014年6月~2014年8月(t=1)、2015年7月~2015年9月(t=2)

期間3:2015年7月~2014年9月(t=1)、2016年7月~2016年9月(t=2)

 また、各期間における除染の進捗状況を、次の3つのカテゴリに分類しました。

地域1:除染がスクリーニング期間前に完了した地域

地域2:除染がスクリーニング期間中に行われた地域

地域3:除染がスクリーニング期間終了まで行われなかった地域

 プログラムの参加者には市役所から個人線量計が送られ、測定期間中は線量計を身に着けているように案内されました。3か月間の測定期間終了後、線量計は市役所に返却され、南相馬市立総合病院で測定値などを記録しました。記録されたデータをもとに、各期間における線量低減率(各期間中に被ばく線量が何%低減したかを示す値)を計算しました。除染を行った地域と行わなかった地域との間で、線量低減率を比較しました。また、回帰分析を用いて、放射性物質の崩壊による物理的減衰による影響を除いた、除染による線量低減率も推定しました。

 結果、成人、小児ともに、除染を行った地域の線量低減率は、除染の時期によるものの、除染を行っていない地域の線量低減率よりも明らかに高かったことがわかりました。2013年~2014年の除染地域では、線量低減率は成人で31~36 %、小児で33~35 %であったのに対し、除染を行っていない地域では、成人で12~23 %、小児で13~23 %でした。期間1と期間2については、成人・小児ともに地域2が地域1や地域3よりも線量低減率が高かったのですが、期間3については、地域による線量低減率の違いはあまり見られませんでした。また、除染開始時の空間線量率が高いほど、除染のタイミングに関係なく、除染による線量低減率が高くなることがわかりました。今回の調査から、放射線災害後の迅速な除染が効果的であり、放射線災害の発生から時間が経過したのちは、空間線量率が高い地域において効果的であることが示されました。

Tsubokura M, Murakami M, Takebayashi Y, et al. Impact of decontamination on individual radiation doses from external exposure among residents of Minamisoma City after the 2011 Fukushima Daiichi nuclear power plant incident in Japan: a retrospective observational study. Journal of radiological protection : official journal of the Society for Radiological Protection 2019; 39(3): 854-71.

政府の空間モニタリングによる空間線量と個人線量の比較(南相馬市)

 2011年3月11日に発生した東日本大震災および福島第一原発事故により、放射性物質が環境中に放出されました。これにより、福島第一原発周辺の地域では、放射線による被ばくが大きな健康上の懸念となりました。住民を放射線被ばくによる影響から守るため、被ばく線量の評価が不可欠です。被ばく線量の評価には、主にモデルによる推定と個人の被ばく線量測定の2つのアプローチがあります。外部被ばく線量をモデルにより推定する場合、一般的には、空間線量率(外気中の放射線濃度を表す指標)や土壌の放射性物質濃度に関する詳細な情報が必要になります。さらに、個人の屋内外での滞在時間、建物の遮蔽係数(建物が屋外からの放射線をどの程度遮蔽するかを表す数値)、身体の各組織に対する放射線の影響などを考慮する必要があります。外部被ばく量を個人線量計により実測することもできますが、測定中は線量計をずっと身に着けていなければならないため、参加者の自発的な協力が必要になります。福島第一原発事故後、政府は放射線量の空間モニタリングを開始し、被災地の除染計画や避難指示の解除など様々なことに用いてきました。本研究グループの以前の研究では、2013年から2016年の間に福島県南相馬市(福島第一原発から14~38 kmの距離)の成人18,392人と小児3,650人の外部被ばくによる放射線被ばく量を報告し、また、除染の有効性の評価も行いました。今回は、同じデータを用いて、政府の空間モニタリングによって決定された空間線量率と個人の外部被ばく線量の相関を評価しました。また、空間モニタリングが除染の効果を評価するのに有用かどうかも調査しました。

 外部被ばく量の測定は個人線量計を用いて行いました。外部被ばくのスクリーニングプログラムの参加者には、市役所から線量計が送られ、測定期間中は線量計を身に着けているように案内されました。得られた値から自然由来の線量を除外し、不適切な使用や検出限界未満のデータは分析対象外とされました。調査期間中の対象地域の空間線量率は、原子力規制庁が提供する公開データから算出しました。

 住民の外部被ばく線量に対する除染の影響を評価するため、下記期間、地域ごとに、線量低減率(各期間中に被ばく線量が何%低減したかを示す値)を計算しました。

期間1:2013年~2014年

期間2:2014年~2015年

期間3:2015年~2016年

 また、各期間における除染の進捗状況を、次の3つのカテゴリに分類しました。

地域1:除染がスクリーニング期間前に完了した地域

地域2:除染がスクリーニング期間中に行われた地域

地域3:除染がスクリーニング期間終了まで行われなかった地域

 分析の結果、成人でも小児でも、空間モニタリングによって得られた空間線量率と住民個人の外部被ばく量には、統計的に明らかな相関がありました。成人の約81.4 %、小児の約83.1 %について、空間モニタリングに基づいた外部被ばく量の推定値と実測値に良好な一致が見られました。また、空間モニタリングから推定された住民個人の外部被ばくに対する除染の影響は、実測値から得られたものより小さくなっていました。これらの結果は、空間モニタリングが対象地域における住民の代表的な放射線被ばく量を推定するのに使用できることを示しています。そのため、個人や政府の意思決定を支援するための有用なツールとなりえますが、一方、住民個人の外部被ばく量への除染の効果については、個人線量計による住民個人の実測よりも感度が低いことがわかりました。

Murakami M, Nomura S, Tsubokura M, Takebayashi Y, Yamamoto K, Oikawa T. Radiation doses and decontamination effects in Minamisoma city: airborne and individual monitoring after the Fukushima nuclear accident. Journal of radiological protection : official journal of the Society for Radiological Protection 2019; 39(4): N27-N35.

まとめ

 今回は、福島第一原発事故後の除染による外部被ばく低減効果を調査した研究についてまとめました。まず、放射線災害の発生後は迅速に除染を行うと効果的であることがわかりました。また、放射線災害の発生から時間が経過したのちは、空間線量率が高い地域において除染が効果的であることが示されました。また、政府は空間モニタリングによって空間線量率を決定していますが、空間モニタリングは代表的な放射線被ばく量を推定するのに使用でき、個人や政府の意思決定に貢献する一方、個人の外部被ばく量への除染の効果については、個人線量計による個人の実測よりも感度が低いことがわかりました。

謝辞

被災者の帰還や住民の安心向上に取り組まれた方々、調査に協力された住民の皆様に深い尊敬と感謝の意を表すとともに、今回の研究にご協力いただいた方々に厚く御礼申し上げます。

作成者:松本智紘

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