能登半島地震――災害弱者を受け入れた福祉避難所の現実

2024年1月初旬、当研究グループのメンバーが能登半島地震の被災地支援のため、石川県輪島市にあるグループホーム「海と空(ウミュードゥソラ)」を訪問しました。その様子を紹介いたします。

※本記事は、医療タイムス社様 メソッド「特別企画」において、医療タイムス 医療界レポートのユーザー向けに2024年02月23日に掲載頂いております。

大震災の知見を生かしたいとの思い

2024年1月1日、石川県能登地方で震度7の地震が発生。年明けに出勤した私たちは、地震のニュースに大きなショックを受けていました。

私たちが所属している福島県立医科大学放射線健康管理学講座は、東日本大震災をきっかけに、被災者の健康を守る研究を行うために設立されました。

メンバーの何人かは、東日本大震災で被災しています。そのときの記憶が鮮明によみがえり、いてもたってもいられませんでした。「現地の状況を知りたい」「自分たちの知見が、少しでも現地の人たちの助けにならないだろうか」。そう強く思っていました。

そんな中、所属長の坪倉医師を通じて、普段からつながりのあった医療法人オレンジグループの紅谷浩之医師から支援要請をいただきました。

また同じくして、交流のあった佐賀県の医療法人ロコメディカル江口病院の江口先生から、「現地へ支援チームを派遣したい。そのチームに同行してほしい」との連絡が入りました。「ぜひともご一緒したい」と返答し、急いで準備を始めました。

この時点で、現地の電気復旧状況などの情報はほとんどありませんでした。ひとまず、自分たちの食料や寝袋、作業着、カイロなどのほか、被災者に配布するための物資などを買いそろえ、現地へと向かいました。

大変な混乱と人手不足だった被災地

被災地に入ると、地割れや倒壊した建物が多く目につき、地震の被害の大きさを物語っていました。支援に向かった先は、石川県輪島市にあるグループホーム「海と空(ウミュードゥソラ)」。発災直後から避難所として周辺住民を受け入れていましたが、8日夜に、福祉避難所という形態での運営に変わりました。

福祉避難所とは、高齢者、障がい者、妊婦、乳幼児など、特別な配慮が必要な被災者(要配慮者)を受け入れる避難所のことです。そのため、「海と空」では8日夜から9日にかけて、一般の避難者と要配慮者の入れ替えが行われていました。

私たちが到着した9日には、30~40人ほどの避難者がおられ、施設のスタッフや外部からの支援団体がほぼ24時間体制で避難所を運営されていました。

避難者の年齢は10歳未満から100歳以上と幅広く、ほとんどが生活をする上で手助けが必要な人たちでした。「海と空」の定員は10人であり、このときは平時の3~4倍の要配慮者が生活されていたことになります。

その上、一般の避難者と要配慮者の入れ替えもあり、現地は大変な混乱と人手不足に陥っていました。「〇〇さんは何時に別の避難所に移動でしたっけ?」「□□□さんが×時に到着します!至急段ボールベッドを展開できるスペースを空けてください!」。常に出入りする人たちの情報が飛び交います。

当時はベッドを配置するスペースや車椅子が通る動線もないほど、人と物と布団が密集していました。まさにしばしばメディアで取り上げられるような、畳に布団を敷いて仕切りもない状態で寝起きをせざるを得ない環境だったのです。 不幸中の幸いと言うべきか、「海と空」では、発災直後から電気を使用することができ、暖房や食事の提供は可能でした。ただ断水状態で、水道の復旧のめどが立っていませんでした。

スタッフと協力し生活改善に着手

この状況で深刻な問題となるのは、衛生管理です。断水により通常の下水処理が機能しない中、排泄物を適切に処理しなければ、ノロウイルスなどの感染症が蔓延してしまう可能性があります。

また、水の使用が限られている上、避難者の対応をする人手が足りず、歯磨きなどの口腔ケアを十分に行うことができない状況でした。口の中が不衛生なままでは、特にお年寄りの避難者は誤嚥性肺炎などのリスクが高まります。

私たちはまず、施設のスタッフや外部支援チームの人たちと協力し、混乱の中で手が回っていなかった生活環境の改善に取り組みました。

まず、畳に雑魚寝の状態をどうにかしなければいけません。避難者やスタッフが動きやすいように、また、生活者のプライバシーが守られるように、避難者の生活スペースのレイアウトを考えました。自衛隊から供給いただいた電動ベッドや、支援物資の空き段ボールで作成したベッドなどを、避難者1人ひとりの動作能力に応じて設置しました。

次に衛生です。現地には車いす対応のトイレが2つありましたが、断水のため水は流れません。便器に袋を重ね、利用者には毎度、排泄物の凝固剤を用いて排泄物を処理していただきました。自力での排泄や後処理が難しい人にはお手伝いをしました。

感染症予防のため、手指の消毒もしていただきました。口の中を清潔に保つことも大切です。入れ歯を濡れタオルで磨く、口内をスポンジブラシで磨くなど、限られた水の使用量でできる限りの口腔ケアを行いました。

「地震前までは歩いて行けてたのだけど…」

要配慮者を受け入れる避難所である以上、各避難者に適切な医療ケアを提供することが重要です。医師などによる医療措置につなげるため、1人ひとりに対して運動能力の確認、体温や脈拍などの測定、表情の観察を行いました。病歴や普段どんな薬を使用しているか、その薬を持っているかなども本人に確認しました。

そんな中、驚くべき声も聞こえてきました。「地震の前までは歩いてトイレまで行けていたのだけどね」。そう、発災前は介助を必要としていなくても、発災後に介助や支援が必要となった人が多数見られたのです。

避難生活により運動の機会が減ったことや、被災のショックやストレスが影響しているのかもしれません。避難者の体力が低下していることを受け、心身のリフレッシュができないかと、施設全体で軽い体操を行いました。

避難所で日中に軽い運動を行うことは、運動機能の低下やエコノミー症候群を防ぐだけでなく、生活リズムも整いますし、不安感を軽減する効果もあります。「こうやって少しでも体を動かすだけでも気分が違うね」。

皆で一緒に体操をすることは、避難者やスタッフがコミュニケーションをとるよい機会にもなりました。避難生活の中で、コミュニケーションは大事です。

避難者は、震災によって普通の生活を失い、余震が続く中、慣れない避難所で終わりの見えない避難生活を送っているのです。どうしても不安感や孤独感を抱えてしまいます。そんなとき、被災の経験や心情を言葉にして誰かと共有することで、心の負担を減らせる可能性があります。

コミュニケーションが避難者の支えに

つらい体験を言語化するのは難しくても、誰かとちょっとした会話を交わすことで孤独感を減らせるかもしれません。「海と空」の避難者からは、「みんなで(福祉避難所に)集まってくるだけいいじゃない」といった声が聞かれました。日常を失い緊迫した状況の中で、周囲の人々とのコミュニケーションが避難者たちの支えになっていることが伺えました。

「海と空」では、避難者たちが率先して他の支援が必要な人への声掛けや食事の配布などを行ってくださいました。「何かやれることはないかい?」と避難者から声をかけてもらえることもあり、とても助かりましたし、お心遣いが身に染みました。

被災した人も、他の誰かのために動くことでやりがいを感じられ、よいコミュニケーションの機会にもなっていたのではないかと思います。私たちも、避難者の人たちができることを奪わないよう、安全に配慮しながら必要な支援を行うことを心掛けました。

被災し避難生活を送るのは、とてもつらいことです。心身が大きなリスクにさらされます。ましてや元々生活が不自由な人であれば、特に大変な苦境に立たされるかもしれません。そんな中でも、もし、ほんの少しでもできそうであれば、自分でできることは自分で行い、周囲の人々と助け合うことで、心身の健康を守れる可能性があります。

非常時のための準備が重要

今回支援に行った福祉避難所「海と空」では、発災直後の混乱、人手不足、断水などにより、避難者も運営スタッフも大変な状況でした。現地支援で強く感じたことは、普段から非常時のための準備をしっかりしておくことの大切さです。

震災時に要配慮者を救うためには、医療ケアを含めた外部の支援が重要になります。しかし、地震の際は道路状況の悪化や土砂崩れのリスクなどにより、外部の支援の手が届きにくいこともあります。

物理的なアクセスが確保されたとしても、通常業務との兼ね合いで、現地へ行きたくても行かれない医療従事者もたくさんいらっしゃるでしょう。被災地に必要な医療支援や人手を、どのようにして迅速に、かつ継続的に供給するかが大きな課題です。

そして、要配慮者や彼らを支える周囲のほうも、被災したときはすぐに十分な医療ケアが得られないことを覚悟し、可能な限りの準備をしておく必要があります。水、食料、衛生用品などの備蓄はもちろん、災害時はどう動くか、誰が指示をするのか、どこに連絡をすべきか、避難方法はどうするか確認しておくなど、普段からの対策で混乱を最小限にできる可能性があります。

日本では大震災が何度も発生しています。阪神淡路大震災から29年、東日本大震災から13年。そのたびに失った命を悔やみ、もう2度とこんな悲劇は繰り返したくないと誰もが思ったはずです。それでも、いまだに震災時には、たくさんの人々が混乱に陥り、命を落としています。

これから少しでも多くの命を救うために、行政、医療界、各避難所、そして個人が、明日はわが身と思い、普段から非常時に備えておかなければなりません。 

謝辞

現地で活動されている現地スタッフの皆様、支援者の皆様に心より敬意を表するとともに、被災された方々には一刻も早い復興をお祈りいたします。また、本研究室の派遣メンバーの現地活動に際して、ご協力いただいた方々に深く感謝申し上げます。

作成者:松本智紘

タイトルとURLをコピーしました